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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

六

俊子はもう眼を地面に落して、其処に匐ってる蚯蚓の上を飛び越していた。その顔が、気のせいか、提灯と同じような白さに見えた。

六

晴れた日には、地引網を見たり、水にはいったり、散歩をしたり、松林の中に迷い込んだり、畑の薩摩芋を盗みに行ったり、遊ぶことはいくらもあったが、雨の日は退屈で仕方がなかった。雨と云えば大抵風雨だった。

南寄りの東に海を受けてる土地だったが、海鳴の音は多く南か北かに聞き做された。南で鳴れば不漁、北で鳴れば大漁、としてあるその海鳴が、風雨の晩は南にも北にも聞えた。その響きに包まれて、雨と風との音がざあーと雨戸にぶつかってきた。

「あれ、今時分どうしたんでしょう?」

耳を澄すと、なるほど地引網の時と同じ様な喇叭の音が、遠くかすかに伝わってきた。

「船上げですよ。」

「船上げってなあに?」

「波が高いから、漁夫達を集めて船をずっと陸の方へ引上げるんです。姉さんはそんなことも知らないんですか、通ぶってるくせに。」

やりこめられたことも知らないで、姉はただ不安そうに眼を見張った。

「そんなに波が高いかしら。……いやな音ね、難破船でもありそうな。」

「あるかも知れませんよ。