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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

」

それが、姉の声だか俊子の声だか分らなかった。また水をぶっかけようとすると、二人は岸の方へ逃げていった。

「もうあなたと一緒には水にはいらない。」

顔に浴びせられた水を掌で拭きながら、姉は怒った風をした。

「だってあなたの方が悪いわよ。」

と俊子は云って、まだ笑ってる眼付で彼の方をちらと見た。

彼は大きな赤貝の殼を拾って、川の方へ力一杯に投げた。その真白いのが空高くくるくると廻って、水の上にぽちゃりと落ちた。

なだらかな砂地が快く温まっていた。

海の岸まで行って、其処に身を投げ出した。

一色の青のうちに平らに見える海が、一町ばかりの沖の方から大きな波に高まって、やがて白い波頭をふり立てながらざざざざと寄せてくるかと思うまに、頂辺からどっと崩れて捲き返した。それが無数に連って、松林と砂丘との真直な九十九里ヶ浜を、眼の届く限り遠くまで……末は茫とした水煙のうちに霞んでいた。耳を澄すと、ごーという地響きに似た音だった。その合間に、ごく近くに、さらさらと軽やかな音とも云えない音がする。風に吹かれた金砂が、日の光りに粉のように輝いて、浜辺を一面に走っているのであった。