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ほんしゅうおうだん つうかいとほりょこう
本州横断 痛快徒歩旅行
井沢 衣水
「冐險世界 第四卷第拾參號」博文館、1911(明治44)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,069 字 · 29 页
▲渋峠の険
戸外に煮え切らない番頭の返事を永く聴いていてはとても堪らぬ。一同の癇癪はまたまた破裂した。「ヨシヨシ、こんな家へ泊るな」とばかり出かけたが、さて宿屋といっては、土地不案内であるからどこがよいかわからぬ。将軍と吾輩は駐在所へ行って、巡査に依頼してようやく、一井という旅館へ宿ることとなった。いかさま、お巡りさんでも頼まなければ、どの家でも泊めてくれなかったかも知れぬ。連日炎天の行軍で顔は赤銅のごとく、光っているのは眼ばかり。それに洋服は汗と埃でグシャグシャになった上に臭くなっている。その上へ茣蓙を付し、檜木笠を被っているのだから「どうも御気の毒様で」といわれたのも無理はない。しかし、服装や荷物を一見してお客の品定めをし宿泊を断るというに至っては、不届き千万である。かくのごとく一般旅客に不親切なる旅館は、一刻も早く滅亡すべし。望雲館、大東館の不親切なるに反し、一井旅館は極めて親切にしてくれた。火を落として何物も出来ないとの事、缶詰を破って腹を癒やし、翌朝八時頃まで怒々と寝込む。
▲渋峠の険
朝のうちに草津の町を見る。極めて平凡なる土地なり。ただ高原の中より湧く温泉が霊験あるというだけ。