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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

そのなかで昨今の時勢につれて格別立身のつるをつかんだと云うのでもない連中。とび立つような夫々のきっかけをのがさずとらえて、いろんな動きかたをしたというのでもない連中。そういう人数も数にすればどっさりいるわけなのだが、その居据り組のサラリーマンはどんな気持で昨今の毎日を暮しているのだろう。

十二時から一時少し過ぎまで、慎一もコンクリート建の三階の室から外へ出て、或る時はひとりで、或る時は何人づれかで食事したり、そのあとをブラブラ歩いたりして、ある興味をもって周囲を見ているのであった。大阪の方はサラリーマンの暮しが東京より楽だという新聞の記事もあった。ところが、年配だの専門だのはそれぞれ雑多にちがっていながら、その居据り組とおぼしい連中が、少し熱して話しこんでいる話題に注意を向けてみると、きっとそこには時勢を利用して動いた側の人物、その事柄がとりあげられ喋られている。

雑談などというものは常にそういうものであるとも云えようが、何かそこに今日の神経の共通なうごきかたとでもいうようなものが加っている。

卒業以来、ずっと北海道へ行っていた飯島という同級の男が、急に上京したと云って四五日前電話をかけてよこした。