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むらいちばんそうけいせん

村一番早慶戦

佐々木 邦

「冨士」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,468 字 · 34 页

青空文庫

その大金持の後押しで酒の醸造を始めたのが成功の切っかけだった。

僕の家には忠八という名詮自性の忠僕がいた。もう疾うに死んだが、僕は忠犬八公を連想する。八公の銅像を見た時、顔も似ていると思って、感慨無量だった。僕はこの忠八から家庭の教育を受けたようなものである。物心を覚えてからは忠八が始終附き添っていた。

「一夫さん、東金に負けちゃなりませんぞ。今にあんたが東金を見返してやるんです」

これが忠八のおはこだったが、六つや七つの子供には意味が徹底しない。見返すと言うからには、その頃からもう多少此方が引け目になっていたのだろう。

「東金は悪いの?」

「成り上りです」

「成り上りって?」

「生意気です。村一番って顔をしています」

「東金の店は立派だね」

「それだから一夫さんが今に見返してやるんです」

「今でも見返すよ。あんな立派な店だから、前を通ると、何うしても見返す」

その頃、僕は未だ東金君と交渉がなかった。同じ字だけれど、東金君は上で、僕の方は下だ。家が離れているから遊ばない。しかし小学校へ入ったら、僕と東金君が一緒の机に並んだ。他の子供達よりも東金君は遙かに好い子だった。