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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

嫁の実家、又は養子の実家のいいと云う事は、なかなか馬鹿に出来ないものだのに、フラフラと出来心でこんな事をして、揚句は、見越しのつかない病気になんかかかられて、食い込まれる……

お君が半紙をバリバリと裂いた音に、お金の考えが途中で消えた様になって仕舞った。

アア、アア

とけったるそうな、生欠伸をして、

「さあ御晩のしたくだ、

この頃の水道の冷たさは、床の中では分らないねえ。

と云って、ボトボトと立ちあがった。

「ほんにすまん事、

堪仁しとくれやす。

と云いながら「いやになり申候」と書き切って頭をあげると、すっかり知らない間に陰が濃くなって、部屋の隅のものは只うす黒く浮いて見えるほどになって居た。

小窓からも、縁側からも入った奥に居る自分の近所は、気がつけばつくほど暗くて、よくまあ、これで物が書いて居られたと思うほどであった。

狭い狭い台所で、水のはねる音を小うるさくききながら、夫や舅の戻らないうちにと、筆の先に視力を集めて、はかの行かない筆を運ばせた。

一枚半ほどの手紙を書き終った時、パット世界が変るほど美くしい色に電気がついた。

大きな字で濃く薄くのたくった見っともない手紙を、硯のわきに長く散らばしたまま、お君は偉く疲れた気持で、ストンと仰向になった。