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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
「別に何ぞって――
お君は、がっかりした様な声で眼の隅から鈍くお金を見て返事をした。
「とにかくそいじゃあそうして見るがいいさ、いくら彼んな人だって男一匹だもの、どうにかして行くだろうさ。
お君は、今先ぐにも手紙を書こうかと思ったけれ共、両眼ともが、半分盲いて居る父親が、長い間、臭い汽車の中で不自由な躰をもんで、わざわざいやな話をききに来なければならないのを思うと、髭を物臭さに長く生やして、絶えず下目をしてボツボツ低く話す、哀れな父親の姿が目前に浮いて見えた。
父親がきの毒で、一時は、書くのを止めようかとも思ったけれ共、さりとて、黙ったまますむ事でもないので、ロール手紙に禿びた筆で、不様な手紙を書き始めた。
まとまりのない、日向の飴の様な字をかなり並べる間、お金は傍に座って筆の先を見ながら、自分の息子にあまり益のない嫁を取った損失を考えて居た。
始め、恭二を養子にする時だって、もう少しいい家から取るつもりで居た目算が、ひょんな事からはずれて先の見えて居る家などからもらってしまったし、又お君でも、いくら姪だと云っても、あまり下さらない女をもらってしまって、一体自分等は、どうする気なんだろうと云う様な事を思って居た。