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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
虎の子の様にしてある二十円近い金を手離なさなければならないのを思って、寒い様な気持になったお節は、ランプの、わびしい黄色い灯かげを見ながら、
「アアアア
と生欠伸をかみころして、生ぬるい、ぼやけた涙をスルスル、スルスル畳にこぼした。
乏しい懐のまま、栄蔵が旅立って行ってしまってから、ぽつんとたった一人になったお節は、長火鉢の下引出しに入れた五十銭の金のなくならないうちにと一生懸命に人仕事をした。
かなり困った生活をして居るのに、士族の女房が賃仕事なんかする奴があるかと云って栄蔵は、絶対に内職と云うものをさせないので、留守の間にと、近所の者達のところから一二枚ずつ、
「一人で居るので、あんまり所在ないから。
と云って仕事をもらって来て居た。
出来るだけの事をせんではと一心に思って居るお節は仕事をたのんだ百姓共が、
「ほんにこの頃は、よっぽどひどい様に見えますなあ。何んしろ、ああやって旦はんに何もせいで居られては、偉う大尽はんやかて、食い込むさかい無理もあらへん。
と、半分同情的な、半分は見下げ気味な噂をするのに耳もかさなかった。
一体に百姓女は手先が利かないので、かなりまとまったものもこなせるお節は、困らないで居られた。