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えいぞうのし

栄蔵の死

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页

青空文庫

義母はんは、若しもの時はそうきめて御出でやはるんえきっと。

恭二は、行末の知れて居る様な傾いた実家を思うと、金の無心も出来ず、まして、他の人達のする様にそっと母親の小遣いを曲げてもらうなどと云う事も、母の愛の薄いために此家へ来た位だから到底出来る事ではなかった。

中に入って板挾みの目に会いながら、じいっと押しつけられて居るより仕様がなかった。

「そんな事は口の先だけなんだよ。

何ぼ何だってそんな事が出来るわけのものじゃあないじゃないか、

大丈夫だよ。

義母さんがよしそう云ったからって、私まで同意すると思うんかい。

「そんな事思わんけど……

貴方やかて、血を分けた息子はんやあらへんもん、

なあ。

「そう云えばそれまでだが……

一っそ二人で追い出されて行くさ、

それが一番早く『けり』がついていいじゃあないかい。

何と云う事はなしに恭二の口から世間の味を噛みしめた人の様な口調でこんな言葉がすべり出た。

別にお君をこの上なく美くしいとか、利口だとか又は可愛とかは思って居るのではないけれど、恭二の心の中には一種、他の愛情とは異った、静かな、落ついた愛情が萌えて、自分ばかりをたよりにして居る女をかばってやる事は当然自分の尽すべき事の様に考えて居た。