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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
お節は、筋がつれたのだと云って居るけれ共栄蔵はもっと倍も倍も重く考えて居た。
亀の尾を打った者は、打ち様によって死んで仕舞う位だからきっと、躰を動かす働きが頭の中から悪くなってしまったのだろうと思った。
盲人だと云ってもいい位の体の上にまたこんな事になられては、生きて居る甲斐がない。栄蔵は、絶えず激しい不安におそわれて、自分の居る部屋の隅々、床の下、夜着のかげに、額に三角をつけた亡者共が、蚊の様な声をたてて居る様に感じて居た。田舎医者は、四肢の運動神経に故障の出来たわけが分らなかった。
今日はよかろう、明日はよかろう、夫婦ともそれを空だのみにして居たけれ共十日二十日と立つ中にそれも絶望となってしまった。
奈落のどん底に突落された様な明暮れの中に栄蔵は激しい肉体の悩みと心の悩みにくるしめられた。
打ったところが、何ぞと云っては痛み、そこが痛めば頭の鉢まで弾けそうになった。
何かして、フト手の利かない事を忘れて、物を握ろうとなどすると平にのばした腕には何の感覚もなく一寸動こうともしないのに気がつくと、血の出るほど唇をかんで栄蔵は凹んだ頬へ大粒な涙をボロボロ、ボロボロとこぼした。