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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
「よして下さい、こっちはそれどころじゃありませんよ」
「ここで怒ったってしようがない。舟仙がいやならまた金魚の尾鰭でも切ってやるさ、またそろそろ伸びているころだぞ」
悠二郎はくやしがって歯ぎしりをした。
残されたことがどうにもくやしい。新泉はもちろんくいしんぼうの原精一郎まで供をしていった。どうして自分だけ残されたのか、正篤の意志でないことはわかっている、おそらく誰かの邪魔だろう、正篤から自分を離そうと思うやつの策動に違いない。
――いったいどいつの仕事だろう。
新泉かと幾たびも思った。しかし気性こそ合わないが、彼は新泉がそんな人間でないということを知っていた。まさか原のくいしんぼうではあるまいし、ほかに思い当る者はひとりもない。そこでまたふっと新泉の名が頭にうかび、慌ててまたうち消し、自分でもしまいにうんざりして、よし、そんならこっちは息抜きをしてやれ、と、ようやく肚をきめた。
舟仙へもいったが、面白くはなかった。
「あら、信さんどうなすって」
「わからねえやつだな、このまえ来たとき云ったじゃねえか、殿さまの供をして国へいってるんだよ、なんど云やあいいんだ」