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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

家から渡辺老人が三度ばかり来た。悠二郎はいちども会わなかった。すると十二月になってまもなく、父が渡辺老人を伴れて来て、正式に勘当すると告げた。

「土井とは縁を切り、御家臣帳からも名を削った、我が子でもなくもはや藩家の家臣でもない、おまえはおまえの好きにするがよい」

悠二郎はなにも云わず、黙ってただ頭を下げた。父は仙吉夫婦にもそのことを告げたのであろう、おみつが駆けあがって来て、悠二郎の側へ坐って泣きだした。

「どうしたっていうの、いったいなにがあったの、悠ちゃん、あんた勘当なんかされちゃってどうするのよ、お願いだから謝って頂戴、すぐいって謝って頂戴、このとおりよ悠ちゃん」

「泣くこたあねえ、覚悟のうえなんだ」

「そんなこと云ったって、お家を出されてこれからどうするのよ、ねえ、あたしのお願いだから謝って頂戴」

「ほっといて呉れ、おれのこたあおれがするよ」

「それじゃ済まないから云うんじゃないの、そんなことしたら苦労するばかりじゃないの」

おみつは袂で顔を押えながら泣いた。

「――悠ちゃんの苦労するのを見て、あたしが平気でいられると思って、……あたしがどんなに心配しているか、あんたわかっちゃあ呉れないの」