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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

小父さんも肥った身体を休めているかして、帳場の方には見えない。そのとき、捨吉は学校に居る時分に暗誦しかけた短い文句を胸に浮べた。オフェリヤの歌の最初の一節だ。それを誰にも知れないように口吟んで見た。

“How should I your true Iove know

From another one?

By his cockle hat and staff,

And his sandal shoon.”

熱い草の中で息をする虫のように、そっと低い声で繰返して見たのは、この一節だけであった。彼はまだあの歌の全部を覚えてはいなかった。

「さあ――退いた、退いた」

と呼ぶ善どんを先触にして、二三人の若い手合が大きな薦包の荷を店の入口から持込んだ。大勝の連中のなかでは一番腕力のある吉どんが中心となって、太い縄を掴みながら威勢よく持込んで来た。居眠りする小僧でもその辺に腰掛けていようものなら、突飛ばされそうな勢だ。

角張った大きな荷物は、どうかすると雑貨を置並べた店の棚とすれすれに、帳場の後手にある硝子張の天井の下へと運ばれて行った。

「静岡から塗物の荷が来たナ」