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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页
八
そうした空想は全く自分の行こうと思う道では無かったから。それにしても針製造人の運命をもってこの学校へ学びに来たとは夢にも彼の思い及ばないことで有った。学窓とこの世の中との隔りは――とても、高輪と大川端との隔りどころでは無かった。
残る二学期の終には、いよいよ四年生一同で卒業の論文を作った。捨吉もそれを英文で書いた。学校の先生方は一同をチャペルに集めて、これから社会の方へ出て行こうとする青年等のために、前途の祝福を祈ってくれた。聖書の朗読があり、讃美歌の合唱があり、別離の祈祷があった。受持々々の学科の下に、先生方が各自署名して、花のような大きな学校の判を押したのが卒業の証書であった。やがて一同は校堂を出て、その横手にある草地の一角に集った。皆で寄って集ってそこに新しい記念樹を植えた。樹の下には一つの石を建てた。最後に、捨吉は菅や足立と一緒にその石に刻んだ文字の前へ行って立った。
『明治二十四年――卒業生』
八
学校を卒業する頃の菅はエマアソンなぞの好きな、何となく哲学者らしい沈着を有った青年に成って行った。それにクリスチァンとしての信仰もこの人のは極く自然であった。