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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页
了った。彼は同級の中でも最も年少なものの一人ではあったが、入学して二年ばかりの間は級の首席を占めていた。一時彼は多くの教授の愛を身に集めた。殊に亜米利加から新規に赴任して来たばかりの少壮な教授なぞは、真面に彼の方を見て講義を続けたり、時間中に何度となく彼の名を呼んで質問に答えさせたりした。この目上の人の愛は、すべての人から好く思われ、すべての人から愛されたいと思った彼の心を満足させたのである。それらの日課を励む心すら何処へか失われて了った。彼はエリス教授を満足させるほどの果敢々々しい答もしなかった。
多くの日課はこの通りだった。彼は唯自分の好める学科にのみ心を傾け、同級の中でも僅かの人にしか口を利かないほど黙し勝にのみ時を送った。
眼に見えない混雑は捨吉の行く先にあった。午後に彼は以前の卒業生の植えた記念樹のあたりへ出た。ふとその樹の側を通る青年がある。上州の方から来ている良家の子息で、級は下だが、捨吉と一緒に教会で洗礼を受けた仲間だ。一時はよく一緒に遊んだ生徒だ。揃いの半ズボンで写真まで取ったこともある。
その生徒は捨吉の顔を覗き込むようにして、