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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页
磯子に対する岡見の遣瀬ない心持にも姉妹中で一番同情を寄せているのは彼女らしかった。
「青木君の結婚の話が好いじゃないか。先生はあの細君を担ぎ出しちゃったと言うんだから」
「青木君のは自由結婚だそうですね」
岡見と捨吉とが語り合う側で、涼子はかすかな深い微笑を見せていた。
二汽車ばかり後れて清之助も東京から捨吉の後を追って来た。高等学校の制服でやって来た清之助を加えたので、狭い別荘の内は一層賑かになった。
「一寸失敬します。そこいらへ行って草鞋を見つけて来ます」と、捨吉が言出した。
「今、婆やに取りにやりますよ」と涼子は立って来て言った。
「とにかく、今夜はここへお泊りなさい。弟もその積りで来たんですからね。草鞋は明日の朝までに買わして置きましょう」と岡見も捨吉をいたわるような調子で。
「あんまり御世話になって、御気の毒だ」と捨吉が言った。
「なあに、そんなこと有りゃしない。まあ、今夜は大いに話すさ。しばらくもう御別れだ」
夕飯には涼子の手料理で、心づくしの馳走があった。捨吉はこれから先の旅の話をして、西京へ行ったら未だ逢ったことのない峰子をも訪ねようし、ことによったら伊予の方へも旅して、そこに教鞭を執っている足立をも訪ねよう、とにかくこれから東海道を下って行って見るつもりだと話した。