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さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時
島崎 藤村
「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页
菅はその表紙をうちかえし見て、二枚ばかり中に入れてある英吉利の銅板の絵をも眺めた。
捨吉も一緒に眺め入りながら、
「好い画だろう。これは君、僕が初めて買った西洋の詩集サ。銀座の十字屋に出ていたのサ」
こんな話から、二人はまだ少年の頃に英吉利の言葉を学び始めた時のことなぞが引出されて行った。初めてナショナルの読本が輸入されて、十字屋の店頭なぞには大きな看板が出る。その以前から行われたウィルソンやユニオンの読本に比べると、あの黄ばんだ色の表紙、飽きない面白い話、沢山な※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)画、光沢のある紙のにおいまでが少年の心をそそって、皆争って買った時のことなぞも引出された。捨吉が初めて就いた語学の教師は海軍省へ出る小官吏とかで、三十銭の月謝でパアレエの万国史まで教えてくれた話も引出された。
「僕が二度目に就いた英語の先生という人は字引をこしらえていたよ。面白い発音の仕方で、まるで日本外史でも読むのを聞いてるようだっけ。それでも君、他の生徒があの先生はなかなかえらいなんて褒めりゃ、自分まで急に有難くなったような気もしたッけ」