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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

とか、女学校の方の生徒達にまで言われるように成った。思い屈したあまり、彼はどうかすると裸体で学校のグラウンドでも走り廻りたいような気を起して、自分で自分の狂じみた心に呆れたこともある。

こういう中で、捨吉は二人の友達に心を寄せた。相変らず菅は築地の家の方から通学していた。足立が寄宿舎生活をするように成ってからは、三人して一緒に成る機会が多かった。

捨吉は足立の部屋の前へ行って、コンコンと扉を叩いて見た。

「お入り」

という声がする。「カム・イン」と英語でいう声もする。

扉を開けて入ると、丁度菅も学校の帰りがけに寄っていた。三脚しか椅子の置いて無い部屋の内には足立、菅の外に同級の寄宿生も二人居て、腰掛けるもあり、立つもあり、濃い色のペンキで木目に似せて塗った窓枠の内側のところに倚りかかるも有った。

「岸本は丁度好いところへ来た」

と足立は年長の青年らしく言って、机の上に置いてある菓子の袋を勧めた。

「菅君、やり給えな」

と一人の同級生は袋の口を菅の方へも向けて持成顔に言った。

「阿弥陀っていうと、何時でも僕の番に当るんだ」と他の同級生がわざと口惜しそうに言う。