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もりのいしまつ

森の石松

山中 貞雄

「シナリオ・臨時増刊号」1937(昭和12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,949 字 · 49 页

青空文庫

鏡台の前で一寸鏡を覗く。

S=荒物屋の階下

石松、上り框に腰掛けて草鞋をぬぎ乍ら親爺に

「爺っつあん、今日俺の来た事ァ内緒だ。誰にも言っちゃいけねえぜ。いいか」

と、ぬいだ草鞋を持って二階へ上ろうとする。

親爺が呼び止めた。

「石さん、一寸」

「何んだよ」

「目出度い話さ」

「出し抜けに、どうしたんだ」

「実はね、石さん。お半さんがどうやらお前……」

と石松の耳許でボソボソ。

石松、

「えッ、本当かい? とっつあん」

と喜んだ。

S=二階

石松、上って来る。

「お半、少時お別れだ」

「どうしたの?」

「左様なら……。達者で居て呉れ」

「何、言ってンのよ」

「後になると云えなくなるから初めに云っちまったんだ」

「冗談でしょう? からかって。まさか本気で云ってンじゃないわね」

石松、無言。お半が、

「三月も旅へ出ていてやっと帰って来て呉れたかと思うと、まだお帰ンなさいとも云わないのに、また左様ならなのね」

石松、長火鉢の処で銭を廻したりなんかして居る。

お半、

「眼を怪我したのね」

「なーに一寸芥が這入ったんだ」

「気をつけてね……」

「うん……」

「何時行くの?」