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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

「済まなかった」と六郎兵衛が云った、「帰るから勘定をしてくれ」

「もう頂いてあります」と女が云った、「お伴れさまから頂きましたし、お預かり分もあります、あちらでお渡ししますからどうかお立ちになって下さい」

「そうか」と六郎兵衛は云った、「では刀を取ってくれ」

「おれが持ってるよ」と横にいる男が云った、「店を出たら渡すから歩きな」

「用心がいいな」

「気違えに刃物は怖いからな」

「さぶ」ともう一人の若者が云った、「――さあいらしって下さい、お客さん」

六郎兵衛は立ちあがった。

店で草履をはくとき、女が盆にのせて釣銭を持って来た。六郎兵衛は、座敷を汚したからその代に取っておけ、と云った。女はそんなものはいらないと答えた。

「お伴れの方から預かったんですから、どうか持っていらしって下さい」女はそう云って、盆の上の物を包み、六郎兵衛の左の袂へ入れてやった、「ようございますか、ここへ入れましたからね、落さないようになさいましよ」

六郎兵衛は外へ出た。

店から十間ほどいったところで、刀を渡された。六郎兵衛はそれを腰に差すと、西へ向かって、杖を突き歩きだした。

――あの船頭たちは見ていた。