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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
05 第五部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页
世の常の心では、ああはつけるものではない。わしの耳には、そのまま仏界の妙音ともきこえたのじゃ。鐘をつくなら、あのようにつきたいものじゃのう。何も遠慮することはない。みんなの心得にもなることじゃ。かくさず、そなたの気持ちをきかせてはくれまいか。」
「おそれ入ります。では申しあげますが、実は国もとにおりましたころ、いつも師匠に、鐘をつくなら、鐘を仏と心得て、それにふさわしい心のつつしみを忘れてはならぬ、と言い聞かされておりましたので、今朝もそれを思い出し、ひとつきごとに、礼拝をしながらついたまででございます。」
奕堂和尚は聞きおわって、いかにもうれしそうにうなずいた。そして、まだどこかに漂っていそうな鐘の音を追い求めるように、ふたたびしずかに眼をとじた。
この妙音をつきだした小僧こそは、実に、後年の森田悟由禅師だったそうである。
*
朝倉先生は、この話を語りおわると、しばらく沈黙した。
塾生たちは、かるくとじたまぶたをとおして、窓のすりガラスに刻々に明るくなって行く朝の光を感じながら、つぎの言葉を待った。軒端には、雀がちゅんちゅんと、間をおいて鳴きかわしている。