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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

虚偽をにくむ心は尊い。しかし、人間が徹底して虚偽から自由であることは、ほとんど不可能に近い。この故に、虚偽をにくめばにくむほど、人間の苦しみは深まるものである。次郎にとって、この日は終日、そうした意味での苦しみをなめる日であったとも言えるであろう。かれは、実際、開塾以来の、いや、かれ自身の気持ちとしてはもの心ついて以来の、最もいやな日を、この雪の日にすごしたわけだったのである。

翌日も雪空だった。ときどき晴れ間を見せたが、雪は解けるより積もるほうが多かった。塾生たちは戸外の作業が全くできないために、やはりとじこめられた形だった。しかし、次郎にとっては、昨日の日曜にくらべるとはるかに楽な日だった。それは予定の行事を予定に従ってすすめて行けばよかったし、そして、それだけのことは、自分の心をいつわっているという不愉快な自覚なしにもできることだったからである。

雪のせいか、その日の午後の郵便物は二時間もおくれて、日暮れ近くに配達された。ちょうど夕食まえの休み時間で、次郎はその時、何かの用で塾長室にいたが、用をすまして出て来ると、廊下を急いでいた郵便物当番が声をかけた。