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しょうごのさつじん
正午の殺人
「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页
それについて、久子は奇怪な申し立てを行っているのである。
「私が神社の前にたたずんでいましたのは、そこで待っておれという先生のお言葉だったからです」
「いつ命令をうけましたか」
「その前日、午後二時ごろ、先生から社へお電話がありましたのです。渡すものがあるから、正午ごろ神社の前で待っておれと申されました」
「なぜ正午まで待たなかったのですか」
「先生のお宅がすぐ近いのに、そんなところに待ってるのが不安になったからです。コソコソと人に隠れるようなことがしていけないように思われて、正午ちかくなってから、なんとなく先生のお宅まで行ってしまったのです」
「渡すもの、とは何ですか」
「たぶん原稿だろうと思いました。それしか考えられませんから」
ところが、その原稿は彼の寝室(兼書斎だが)になかったのである。書きかけのものもなかった。そして、久子の原稿の〆切はまだ先のことでもあった。
久子がこう申し立てているにも拘らず、神田の様子はそんな約束をしているようには思われないのだ。久子の来訪を待ちかねてはいたが、自ら約束の場所へでかけようとする様子はなかった。その気持があれば出かけることはできたはずだ。