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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

「安川さんがお見えよ」

アケミは寝室の扉をあけて大声で怒鳴ってバタンとしめた。すると、

「アケミ! アケミ!」

神田が室内から大声でよんだ。アケミはうるさそうに、扉から顔だけ差しこんで、

「なアに?」

神田が何かクドクドと云った。アケミは扉をしめて文作のところへ戻ってきて、

「男ッて、横暴ね」

「どうしてですか」

「美人を隣室へ呼びこんどいて、お前、ちょッと散歩してこいだって」

「先生なら大丈夫ですよ」

「なにが先生ならなのよ。日本一の助平よ、あの先生は」

「フーン」

「何がフーンさ。さ、出ましょうよ。不潔だわ、ここの空気。淫風うずまいてるわね」

アケミは文作の手をとるようにして、外へでた。まさに、そのとき、正午のサイレンが鳴るのをきいた。

「私も一しょに銀座へ遊びに行こうかな」

「僕はまッすぐ銀座へでるんじゃないんですよ。これから挿絵の先生のところをまわって、それからです」

丘を降りる途中、書生の木曾英介が荷物を自転車につんで登ってくるのに出会った。マーケットへ買い出しにでたのである。

「お居間に安川さんが見えてらッしゃるんですから、奥へ行かない方がよくッてよ」

アケミは木曾に注意を与えた。