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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

衣川さん、僕が今日まで黙って居た事がいいかどうか、あとで云って下さい。ともかくあなたも云われる通り、僕は僕の知っているだけを話して見ますから。

僕が今云ったように之は僕が親しくしている男の話なのです。この男は嘘は云いません。仮りにAと名付けましょう。Aがどうしてあの事件を知って居たか。

衣川さん、あなたはM温泉のMホテルを知って居ますか。一〇三号室というのを知っていますか。あの室はMホテルの最右翼にある室で前が庭ですぐ塀になって居るのです。ところがその塀を一つ隔てて一軒家が立ってるのを知って居ますか。その家はもとKという富豪の別荘だったのですが、昨年から、東京のホテル営業者が買い取ってホテルにして居るのです。其のEホテルの三号室が二階にあって丁度Mホテルの一〇三号室を見下せるように接して居るのです。勿論そうはっきりした事は見えません。けれども見下していると、一〇三号の廻転窓のガラスの幅だけがブラインドの外してある場合は、明かに中が見えるのです。之は僕も最近行って見てためしたところですから間違いはありません。衣川さん、Aは十月二日の夜半にEホテルの三号室に居たのです。