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ぶけわらじ
武家草鞋
山本 周五郎
「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页
九
ものなら、その責任の一半はすなわち宗方どのにもある、世間というものが人間の集りである以上、おのれの責任でないと云える人間は一人もない筈だ、世間の卑賤を挙げるまえに、こなたはまず自分の頭を下げなければなるまい、すべてはそこから始るのだ」
それはまるで頭上から一刀、ずんと斬り下げられた感じだった、伝三郎は五躰が竦み、そのまま奈落へ転落するように思えた。
「廉直、正真は人に求めるものではない」と老人は少し間をおいて続けた、「……そこにある文机をごらんなさい、三十余年も使っているがまだ一分の狂いもない、おそらく名もない職人が僅かな賃銀で作ったものであろう、その賃銀は失せ職人は死んでしまったかも知れない、だが机は一分の狂いもなく、このように今もなお役立っている、……真実とはこれを指すのだ、現にあなたも往復三十里の山道を穿きとおせる草鞋を作った、そこに真実があるのではないか、こういう見えざる真実が世の中の楔になってゆく、ひとに求める必要がどこにあるか、問題はまずあなただ、自分が責めを果しているかどうか、そこからすべてが始るのだ……」
九
老人の言葉はそこで終った。