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ぶけわらじ
武家草鞋
山本 周五郎
「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页
七
「いやなんでもありません」伝三郎は娘の問いかけるのを遮って、片手を振りながら急いでそう云った、「……草鞋作りは性に合いませんのでね、明日から人夫に出ることにしましたよ」
「人夫と仰しゃいますと」
「二俣の南から犬居へぬける裏新道を造っているそうで、誰でも日雇いに出られるということですから」
「でもせっかく草鞋の評判がおよろしいのに」
「いやそれはもう云わないで下さい」伝三郎は脇のほうを向いて吐きだすように云った、「……どうか草鞋のことは二度と云わないで下さい、商人を相手にしたのがこっちの間違いでした、はじめからわかっていなければならなかったのです、しかし、……いやもう同じことです、遣り直しです、人足なら土を掘るのが仕事ですから、土には嘘も隠しもないでしょうから……」
そして逃げるような恰好でかれは家のほうへ去っていった。
七
新道を造る人夫の話は事実だった。かれは酒を飲みにはいった店でそのことを聞いた、柏屋をとびだしたときの気持は忿りというよりも絶望で、なにもかもめちゃくちゃになってしまえと思ったが、老人といねの親切を考えるとここで投げ出しては済まないということに気づいた、――縁もゆかりもない者にこれほど尽して呉れる、ここでその心を無にしては相済まぬ。