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ぶけわらじ
武家草鞋
山本 周五郎
「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页
た、けれどもどういうわけか周囲との折り合が悪く、気持のうえでも日常生活でも、極めて孤独なおいたちをした。人はよく偏狭な男だとかれを嗤った、傲慢な独善家だと罵った、しかしかれにはそういう人の肚がみえ透くのだ。偏狭とはかれが正直いちずだからだし、傲慢と罵るのは廉潔をたてとおすからだ、御都合主義と虚飾でかためた世間の人々には、かれの純粋に生きようとする態度が、滑稽でもありけむたかったのである。
――嗤うなら嗤え、真実であることは嘲笑されるだけで価値を失いはしない、どっちが正しいかはやがてわかるだろう、いつかはおれの真実がかれらの虚飾に勝つときがくる。
かれはそう信じていた、というよりもそう信じなければ生きてゆけないような立場に立たされていたのである。
貞享三年の春、新庄藩に家督問題がおこった、藩主の戸沢能登守正誠には五人の子があったけれど、男子はみな早世し、正誠もすでに老齢に及んだので、その世継をきめなければならぬ時となった。そこで他家へ嫁している正誠の息女の血筋を入れようという説と、家臣ではあるが遠い血続きになっている楢岡兵右衛門の二男を入れる説と、この二つの論が出てかなり紛糾した。