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しね!

死ね!

豊島 与志雄

「文芸」1934(昭和9)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页

青空文庫

夜明けに一番早く眼をさますのは雀らしい。そして、眼をさますとすぐに楽しく囀り交わす。彼はその雀たちのために、窓の外の庇に米粒をまいてやった。いつのまにか食べてしまう。然し人が覗いているうちには決して近寄らない。いくら馴らそうとしても馴れない。ところが仕事をすました朝、彼が放心のていでつっ立って、ぼんやり夜明の空を眺めていると、雀がすぐ側まで来て米粒をひろっているのだった。気がついて眼をやると、雀がぱっと逃げてしまった。

「偶然の一致だろう。」と私は云った。

「偶然じゃない。自然界はそうしたものだ。」

彼はそれを信じきっているらしかった。そしてその発見がとても嬉しいという。そんなことを話しながら、彼は私を誘った、支那料理のさっぱりしたものだけで老酒を飲むのだと。金が少しはいったから心配はないという。そして連れだって歩いているうちに、ばったりと、まるで足の骨が折れでもしたように、彼は躓いて倒れた。手をかしてやると、すぐに起き上ったが、眼に一杯涙ぐんでいた。私は眼を外らした。芝居や映画などで、いつも私のことを泣き虫だと笑っていた彼だ。嘗て涙を見せたことのない彼だ。