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しのこうかい

死の航海

国枝 史郎

「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,634 字 · 18 页

青空文庫

だから私は世界の港を渡って歩くのでございますよ」

若い水夫のガブリエルは、老人の話を聞いているうちに、前の約束をつい忘れて思わず声を出して笑ったが、真面目に話す老人の話がすっかり終えて了った時、遂々椅子から飛び上がって、室の中をドシドシ歩き廻わり乍ら腹を抱えて笑うのであった。

「もう笑わないよ、笑わないよ」漸くのことで笑いを抑えた若い水夫のガブリエルは、老人の側へ返って来たが、

「ちょっとばかり爺さんに訊たいがね、お前は屹度若い頃、うつ、買う、飲む、の三拍子揃った道楽者でその上に阿片を飲みやしなかったかな!」すると老人は驚いたように、

「どうしてそんな阿片のことまで、よく知っておいでなさるかね!」

「阿片でもしこたま飲まなけりゃそんな『確信』なんか出て来ないからさ」

ガブリエルはニコニコ笑い乍ら老人の室から出て行ったが、隣りの自分の室まで来ると、思わず次のように呟いた。

「うってつけの椋鳥っていう奴さね。そろそろ芸当に取りかかるかな……相手は阿片の中毒患者で妄想狂と来ているから此方に執っては天の助けだ……待つ甲斐あったというものさね」

その晩遅くなってから、ガブリエルは窃り室を出て老人の室へ這入って行った。