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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
規矩男は暫く黙って歩いた。
そのうちに二人はまたいつか規矩男の家の近所に来ていた。黙っていた規矩男は、急にはっきりした声で云った。
「いや、いまにきっと逢せます。然し、僕はあなたに母を逢せる前に聞いて頂きたいことがあるんですけれど……僕が云い出すまで待ってて下さい」
「そう? 優等生型の身辺事情には、いろいろ順序が立っているでしょうからねえ」
「からかわれる張り合いもないような事なんです」
規矩男の家は松林を両袖にして、まるで芝居の書割のように、真中の道を突き当った正面にポーチが見え、蔦に覆われた古い洋館である。
「感じのいいお家じゃなくって」
「古いのが好いだけです。いまにご案内します」
そういって何故か規矩男は去勢したような笑い方をした。その笑い方はやや鼻にかかる笑い方で、凜々しい小ナポレオン式の面貌とはおよそ縁のない意気地のなさであった。
「規矩男さん、あなたを見ていると、時々、いつの時代の青年か判らないような時もあってよ」
すると規矩男は、さっと暗い陰を額から頬へ流し去って、それから急いでふだんの表情の顔に戻った。
「たぶんそうでしょう。自分でもそう感じる時がありますよ」