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すいちゅうのかいじん
水中の怪人
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1939(昭和14)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,922 字 · 18 页
第三のは霊岸島の河岸にある肉屋なんだ。これは十八日の晩のやはり十時ごろだが、同じように雨外套を来た男が塩豚と腸詰を買いにきたんだ」
「そして買わずに水のなかへ帰っていった」
ふいに三人のうしろでそういう声がした。
さっきから、少しおじけついていた良子は、わっと云いながら両手で兄の首へしがみついた。文吾と啓吉が振りかえってみると、顔色の蒼い職工服を着た青年がそこに立っていた。そしてうすい唇に皮肉な冷笑をうかべながら、
「だいぶ河童事件に興味をお持ちのようですね」
まるでからかうように云った。
「ご注意なさる方がいいですよ。河童というやつは自分の噂のあるところへ出たがるものだそうですから」
「失礼だが君は誰ですか」
若い敬吉がむっとしながら云った。
「僕ですか――僕は……」青年はにやっと笑うと、
「なに、いまに分りますよ」
と云いながら、くるりと踵をかえして立去っていった。――敬吉と文吾はただ不快な気持でそれを見送っていたが、その青年の姿が見えなくなるとすぐ、
「あたし、あの人知ってるわ」
と良子が声を震わせながら云った。
「あの人うちの工場にいたことがあるの。ええ、たしかにいたわ」