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すいちゅうのかいじん

水中の怪人

山本 周五郎

「少年少女譚海」博文館、1939(昭和14)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,922 字 · 18 页

青空文庫

濡れた大きな足跡、啓吉は果して何処へ

「――か、河童だ」

源次がふるえながら叫んだ。――咄嗟にふなばたから覗いた書生は、舟灯りにすいてみえる水の中を、人間とも猿ともつかぬ怪物が、ゆっくりと歩いて行くのをはっきりと見た。

濡れた大きな足跡、啓吉は果して何処へ

「それで二つの事件は分った。第三はどんな場面が出るんだい?」

「いやだわそんな話、こわいわ」

「なんだい、水泳の選手のくせに」

さわやかな海風に笑声が流れた。

午後九時に芝浦を出帆した「葵丸」は、いま伊豆の大島へ向けて静かに速度を増しつつあった。もう鶴見沖であろうか、舳先の右先に遠く、横浜港の灯火が夜空を焦がしている。

上甲板に椅子をならべて、若い三人の船客が、いま世間を騒がせている「河童事件」を話しあっていた。

事件の覚書を読んでいるのは平林文吾と云って、帝大出身の理学士、いま鹿島水圧工業研究所の若手のぱりぱりである。――聞いているのは鹿島啓吉とその妹、研究所長の子供たちで、啓吉はまだ文科大学生だし、妹の良子は府立第×女学校の水泳の選手であった。

「それで第三はね」と文吾は覚書をめくりながら、「これは第一のと似ているんだ。はじめは越前堀の雑貨店だろう。