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すいちゅうのかいじん
水中の怪人
山本 周五郎
「少年少女譚海」博文館、1939(昭和14)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,922 字 · 18 页
人間か河童か? 海底を歩く怪物
人間か河童か? 海底を歩く怪物
いまどき河童がいるなどと云っても、おそらく本当と思う者はないだろう。
まだ河童というものが一ぱんに信じられ、絵にかかれたり、まことしやかな物語としてつたえられた時代にも、多少の知識をもった人々は、架空のことと笑ってかえりみなかったのである。――それが現代の、しかも帝都のまんなかに出現したのだから、世間の耳目をいかにおどろかしたかは想像のほかであった。
第一の事件は五月十二日におこった。
京橋越前堀の河岸に「島屋」という雑貨店がある。午後十時ごろのことで、若い店員が店をしめようとしていると、一人の客が店先に近よってきて、
「ちょっと君、缶詰をくれないか」と云った。
その日は朝からいい天気であったのに、見るとその男は、護謨びきの雨外套を着て、しかもそれがぐっしょり濡れている。おまけに長くのびた髪の毛が額のうえにたれさがり、そのあいだから、眼だけがぎらぎら光っていた。
気味の悪い男だなと店員は思った。
「缶詰はなにをさし上げますか」
「果物だ、早くしてくれ」
「果物と云ってもいろいろありますが……」
そう云うと、客はいきなり両手をあげて妙な身ぶりをした。