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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
そして屹となって私の顔を見張り、自分が云い出す言葉が、どう私に感銘するかを用心しながら云った。
「僕は、今でも、僕の雑誌の詩壇の選者を頑張ってやっています。だんだん投書も少くなるし、内地の現代向の人に代えろと始終、編輯主任に攻撃されもしますが、なに、これだけは死ぬまで人にはやらせない積りです」
日盛りの中での日盛りになったらしく、戸外の風物は灼熱極まって白燼化した灰色の焼野原に見える。時代をいつに所を何処と定めたらいいか判らない、天地が灼熱に溶けて、静寂極まった自然が夢や幻になったのではあるまいか。そこに強烈な色彩や匂いもある。けれどもそれは浮き離れて、現実の実体観に何の関りもない。ただ、左手海際の林から雪崩れ込む若干の椰子の樹の切れ離れが、急に数少なく七八本になり三本になり、距てて一本になる。そして亭々とした華奢な幹の先の思いがけない葉の繁みを、女の額の截り前髪のように振り捌いて、その影の部分だけの海の色を涼しいものにしている。ここだけが抉り取られて、日本の景色を見慣れた私たちの感覚に現実感を与える。
天井に唸る電気扇の真下に居て、けむるような睫毛を瞳に冠せ、この娘特有の霞性をいよいよ全身に拡げ、悠長に女扇を使いながら社長のいうことを聴いている。