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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

「恋というものは人間を若くする。酒と子供は人間を老いさせる」

ステッキの頭の握りに両手を載せ、その上に額の端を支えながら、こんな感慨めいた言葉を吐いた。大酒呑みで子供の大勢あるという中老の社長は、籐のステッキをとんと床に一突きして立上ると

「その船の入港には、まだ三日ばかり日数がありますな。では、その間にしっかり見物しときなさるがよろしいでしょう」

そしてボーイに車を命じた。

スピーディーな新嘉坡見物が始まった。この市にも川が貫いて流れていた。私は社長に注文して、まず二つ三つその橋々を車で渡って貰った。

両岸は洋館や洋館擬いの支那家屋の建物が塀のように立ち並んでいるところが多く、ところどころに船が湊泊する船溜りが膨らんだように川幅を拡げている。そして、漫々と湛えた水が、ゆるく蒼空を映して下流の方へ移るともなく移って行く。軽く浮く芥屑は流れの足が速く、沈み勝ちな汚物を周るようにして追い抜いていく。荒く組んだ筏を操って行く馬来の子供。やはり都の河の俤を備えている。

河口に近くなってギャヴァナー橋というのが、大して大きい橋でもないが、両岸にゲート型の柱を二本ずつ建て、それを絃の駒にして、ハープの絃のように、陸の土と橋欄とに綱を張り渡して、橋を吊っている。