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でいたんちそうわ

泥炭地双話

中谷 宇吉郎

美しき泥炭地「科学と芸術」1946(昭和21)年3月<br>泥炭地の物理「農業朝日」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,790 字 · 12 页

青空文庫

もっと手近いところで、風がある場合、固体の表面から奪われる熱量と風速との関係は、熱工学方面では充分よく研究されている。しかしそれは平滑な面上を層流の風が吹く場合が詳しくわかっているだけで、畑の上を天然の風が吹く場合には、その公式は全然使えない。作物のある畑の上を吹く風は、常に渦流になっていて、その渦の様子は畑の条件によって皆異なる。従って熱の奪われ方もそれぞれの場合によって異なるはずである。もう大分以前にウィーンのシュミット教授がこの渦流の研究をして面白い結果を出しているが、その後この方面の研究で劃期的と思われるようなものはあまりよく知らない。秋の稲田に立って、稔った穂が風に靡く姿を見た人は、穂が決して一様には動かず、時々蛇がのたくるような形をして、田の面が極めて複雑に動くことを見ているであろう。あれが天然の実際に吹く風の構造なのである。風がああいう複雑な構造をしているとすれば、それによって地表から奪われる熱の量もそう簡単には決められないことがよく了解されるであろう。

風で奪われる熱よりも、何と言っても問題は太陽熱と地熱とである。そのうちで、太陽熱は結局地表に達する量だけしか利用出来ない。