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あさまふんかこう

浅間噴火口

豊島 与志雄

「文芸春秋」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页

青空文庫

」

そういう応対がなお続いて、不得要領のうちに李は帰っていった。

翌日、李はまたやって来た。学校の学生証と電車の定期券とを正枝に示した。

正枝は一瞥しただけでそれを却けて云った。

「私共は、ほかより少し室代が高くなっていますので、不経済ですよ。」

「それは構いません。」

「それに、御勉強なさるのに自炊ではお困りでしょう。」

「食事は外でも出来ます。」

「外のお食事は、かたよって、身体にいけませんよ。」

「自分でも作られます。時々作っています。」

「それが、学生さんにはなかなかねえ……まあ、よくお考えなすっては如何ですか。」

また不得要領のまま、李は帰っていった。

その翌日、李は更にやって来た。そして一枚の紙を示した。「南京虫其他寄生虫の無之事を証明候也」という珍妙なもので、某アパートの主人の名前に捺印がしてあった。

「僕は嘘を云いました。友人が、南京虫がいると云って排斥するから、証明をしてくれと頼みました。」

正枝は呆気にとられ、次に心を打たれた。半島出身者として特別扱いをしてると相手に思われたことが、心外でもあった。これまでも正枝の応対はみな通例のものであり、現に春日荘の十四五人の居住者中の六人の大学生は、大抵紹介者のある人たちだった。