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あさまふんかこう

浅間噴火口

豊島 与志雄

「文芸春秋」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页

青空文庫

酔っ払いは、こんなに遅くは家へ入れませんよ。」

云うだけ云っておいて、正枝は戸を閉めてしまった。がそこに佇んで、外の気配に耳を澄した。

「おばさん、おばさん」と低い声がした。それから急に、わーっと泣きだした。子供が泣くような大声で喚きたてて、それが冗談なのか、本気なのか分らなかった。正枝はじっと耳を傾けていた。やがて、泣き声がぴたりと止んだ。しいんとなった。正枝は腹を立て、そのまま奥の居室に戻った。

そういう場合、もし女中が眼をさましたら、後で戸を開けてやることになっていた。女中のキヨもタカも、その夜眼をさました。正枝が居室に戻ってから、十分間ばかりたって、キヨが起き上り、玄関の戸を静かに開けた。戸のすぐ外に、李は地面に尻をつき両膝をかかえて蹲まっていた。蹲まったまま動かなかった。肩を揺られ名を呼ばれて、李はきょとんと顔を挙げた。眠っていたのである。手の甲で眼をこすり、大きな欠伸をし、キヨに援けられて立上り、よろよろとはいりこんでき、靴をけはなし、スリッパもはかずに、夢遊病者のように階段を上っていった。

その朝のこと、タカが先に玄関に出かかると、帳場の窓の前に天井から、大きなものがぶらりと下っていた。