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しんやのきゃく

深夜の客

大倉 燁子

「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页

青空文庫

余り唐突に姿を現わしたので、冬子は愕き、あれッ! と叫んで仙ちゃんに縋りついた。もう駄目です。譲治は前後を忘れて飛びかかった。すると、どういうわけか、パッと電燈が消え、室内は真暗になりました。その途端に刃物が彼の手に渡された――、と感じました。あるいは偶然そこに置いてあった刃物を掴んだのかも知れませんが――、とにかく、刃物を握ると同時に逆上した」話している尾越の眼も、何となく殺気を帯びて来た。

「譲治は短刀を振り廻わして、無茶苦茶に暴れ廻ったが、さっぱり手答えがない、血迷っているので、柱に打つかったり、襖を突破ったりしているうちに突然、妻が悲鳴を上げたので、一層物狂おしくなりました。アッ。あなた、助けて――、あれッ、と叫ぶ冬子の声に混って、やったな! と恐しい声、それと共にどたりと倒れる重そうな響きを聞きました。譲治は気狂いのようになって、やたらに短刀を振り廻した。助けて――あなた、武さんを押えてよ――。と声を限りに救いを求める妻の声も、混乱している譲治には何も分らなかったのです。やがて彼はへとへとに疲れて、その場に倒れてしまいました。誰が急報したものか、ドカドカと警官が入って来て、難なく譲治は捕えられたのです。