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しんやのきゃく
深夜の客
大倉 燁子
「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页
声
声
女流探偵桜井洋子のところへ、沼津の別荘に病気静養中の富豪有松武雄から、至急報の電話がかかり、御依頼したい件が出来た、至急にお出でを願いたい、と云ってきた。
有松は如才ない男だ。殊に婦人に対しては慇懃で物優しく、まことに立派な紳士であるが、どういうものか洋子は彼を好まなかったので、ちょっと行き渋ったが、職業柄理由なく断わるのもよくないと思い、午後四時四十分発の急行で、東京駅を立ったのだった。
汽車が小田原に着く頃には、ひあしの短い冬の日は、もうとっぷり暮れていた。
洋子はやっとある事件の解決をつけたばかり、ゆっくり休む暇もなく、直ちに車中の人となったので、座席に落付いてみると、一時に疲れが出てぐったりとなり、おまけにひどい睡魔に襲われて、ともすればうつらうつらとなるのだった。
ふと、近くで人の話声がした。彼女は夢のようにそれを聞いていた。声はどうやら通路あたりから聞えて来るように思われる。
「うまく行った。が、危ぶないところだった。何しろ、――客車全体にはッてやがるんだから――」
調子は荒っぽいが、声は細くて柔かい感じがした。返事は聞えない。
「どんなに手配したって、――目的を果すまでは、掴まっちゃならないぞ!」