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しんやのきゃく
深夜の客
大倉 燁子
「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页
行き届いた彼の事であるから、必ず自身車をもって出迎えに来るだろう、と、予想していたのに――。
あるいは改札口で待っているのかも知れないと思ったが、そににもいない。そればかりでなく、有松からの出迎人らしい者は一人も来ていないし、自動車も廻わしてないのにはちょっとがっかりした。
洋子は円タクの傍に進み、ドアに手をかけながら、
「有松さんのお邸まで送って頂戴」と云った。
運転手はバタンと扉を閉めると同時にハンドルをきった。
夜風が寒く、空には星がきらめいていた。車が松並木にさしかかった時、反対の方向へ向いて、一台のフォードが疾駆して来た。擦れ違った瞬間、ハンドルを握っているがっちりとした鳥打帽の男、それと並んで腰かけている貴公子風の男とが、チラリと眼に入った、はっとして見直そうとした時には、車はもう行き過ぎてしまっていた。彼女はそれが何となく汽車を飛び降りた二つの影であるような気がしてならなかった。
有松の邸はひっそりとしていたが、それでも人待ち顔に扉は左右に開かれていたので、円タクは音を立てて門内に辷べり込んだ。が、誰一人出迎えなかった。洋子は玄関のベルを押した。