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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
「早合点すべからず、二葉亭の趣向をもット捩れア、わが箱根共産団の戯作ができるッてことサ。吾輩、寝ッ転がッてつらつら考えるところ、彼の豪胆なるキルジャーカに当るのは、なんといっても日疋女史さね。空手で野郎の総まくりなンてのは天晴れ天晴れ、なかんずく、北村大人などと来ては」
日疋は左手に花札を掴んだままそッちへ振返って、
「アレ、岡焼居士がまた妙なことを言っていますよ、人を馬鹿におしでない」
縁にいる陶の方へ流眄をつかいながら、
「そこにいるどなたかのように、澄ました顔で隠し食いなさるのとは違います。失敬ナ、妾はこれでも処女ですヨ」
思わせぶりなことを言って、明いたほうの手を北村の腰に廻し、
「北村さん、言わしてばかり置かないで、いッそ本色になって気を揉ませようか」
と、なにか妙な科をしてみせた。
一同はヨウヨウとか、チェストとか盛んに囃したてる。女学生風の海老茶袴は、アア耐らない耐らないと身体を揉んで立ちあがると、
「見せつけられてばかりいて、逆上てしまうワ」
と先刻の狐の傍へ行って、
「すこし散歩しましょう。よウ、ぶらつこうッてばねえ」
と手をとってひきたてた。