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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

秋になる。万頃の蘆一斉にそよいで秋風の辞を歌う。蘆の花が咲く。雁が鳴く。時雨が降る。蘆は次第に枯れそめる。やがて限りなき蘆の一葉一葉に朝霜白く置いて、磨ぎ澄ました霞が浦の鏡一面、大空につく息白く立ち上る頃は、遠かった筑波も毛穴の見える位近々と歩み寄って、夕日の頃は、其の下に当る相見崎観音の石段の数も殆どよまれる。お光の心はどんなに此の清い景色を吸い込んだであろう。冬が来る。景色は寂びれ行く。鴨の羽音冴えかえって胸にこたえる。それに雪が降り出すと、空と湖と一かたまりになって、筑波処か、すぐ先も見えぬ位、ちらちらちらちら降って降って降りしきり、櫓の音もしなければ、鳥の声もせず、唯時々つもる雪の重みに枯葦のぽきぽき折れる音ばかりだ。此様な時には、お光の心は如何様に淋しくあわれに感じたであろう。

学校に行かなくなってからなおなお世間に遠かって、捨児と聞いてから万作夫婦の愛は昔にかわらぬが何となく心に欠陥があるらしく、何か始終思い沈んで居る。それを聊か慰むるは歌と筑波山だ。お光は言わぬさきに先ず歌ったと云っても宜い位だ。何を歌うのか。よく此島で歌う俚歌ではない。