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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

五

と云いそうに依然ゆったりとして気高く清く眺められた。

五

お光は今迄にもまして人中に出るを厭がり、男などが戯言云いかけても、ふいと側を向いてしまう。其のかわり両親には今迄にもまして孝行をする。口数はきかないが、それはそれは細に心をつける。生の親の事は忘れたのであろうか。否々万作夫婦の前では左もないが、独居る時は、深く深く思案に沈むことがある。其時は直ぐ歌う。如何にも悲しそうに歌う。歌うと泣く、泣くと直ぐ柳の根株に行って筑波を眺める。ややしばし眺める。筑波は常にお光の心を慰めた。

万作夫婦も今は六十の上越して、段々体は不自由になって来るし、わけて万作は此頃僂麻質斯で右の腕をいためて時々は久しく仕事を休むこともあり、それに不漁が続くやら網を破くやらで活計も段々困難になって来るので、果ては今迄になく大酒をのみ出して、酔っては罪もないお光を叱り飛ばすこともある。が、お光は一言もあらそわぬ。やっと十五になるかならぬの小腕で、鰻をとったり、網を張ったり、せっせと働いて居る。其上夜も少し暇さえあると、先生に書いて貰った手本を出して、習字をする。万作も時々は叱りとばすものの、斯うやさしくせられては、めそめそ泣き出してお光を抱きしめ、お光も万作にすがりつきて、何とはなしに親子差向いて泣くこともある。