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りょうしのむすめ

漁師の娘

徳冨 蘆花

「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页

青空文庫

文句は薩張分らぬが、如何にも深い思いがあるらしく、誰かをさして訴うるらしく、銀の様な声をあげては延ばし、延ばしては収め、誰教うるともない節奏自然妙に入って、吾ながら吾声に聞きほれて、とんと夫れで自ら慰めて居る様だ。仕事をするにも歌う。遊ぶにも歌う。内に居ても外でも歌う。が、其の最も好む所は、夕焼の美しい時分、家の前の柳の古株に腰かけて、遥に筑波の方を眺めながら歌うのだ。筑波山は幼い時からお光の友であった。其の筈だ、朝起きて顔を洗って眼をあげると、にっこり笑って、とんと「お光坊、おはよう」といわんばかりに此方を向いて居るのは筑波山だ。夕方飯をしまってまた柳の古株に来て眺めると、とんと「お光坊おやすみ、あすもね」といわぬばかり、此方を向いて居る。何処へ往っても、眼をあげさえすれば、筑波は始終此方を向いて居る。時々は蘆のかげに「居ない居ない」をするが、少しでも隙があれば「ばあ、お光坊、此処に居たよ」と云わぬばかりに顔を出す。斯様に小供の時から始終見馴れて居るので、お光の心には筑波が生きて居るように思われて、幼い時から筑波を見ては「あらお山が紫の着物着た。