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はなかみろうにん
濞かみ浪人
吉川 英治
「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页
――けれどもし厭だといえば臆したと嗤われるであろうし、君命にも反く。そしてもし、為損じれば、男として腹を切らなければならないから――武家奉公というものがこんなものなら廃めたほうがいい。つらつら父治太夫が浪人した気持もわかると、臆面もなく云って退けたのである。
『悪かった。数右衛門、わしが悪かった』
――それ以後、内匠頭は、家臣へ向って、そういう座興めいた事を強いた例はまったくなかった。
だが、数右衛門のぶとい浪人骨は、少しも細くなって居ない。
この夏(元禄七年であった)――彼が、国許から転役を命じられて、江戸詰に廻されて来た理由も、そのごつい浪人骨が因を為していた。
国家老の大野九郎兵衛から、在府の殿の手へ届いている人事上の文書には、
(数右衛門不埓の事)
として、三つの箇条が書上げられてあった。その三箇条というのは、
第一、平生殺傷沙汰多く、辻斬り据物斬りなど好む事
第二、勤務粗暴にて忠誠なき事
第三、平素勝手元不如意を申し立てながら、多く人を聚め、酒振舞いなどいたし、武家屋敷にあるまじき囃子など時折り洩れ聞え候事
――だが内匠頭はその書面を握りつぶしているのであった。