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せとうちのこざかなたち
瀬戸内の小魚たち
壺井 栄
「あまカラ 3月号 第一五一号」甘辛社、1964(昭和39)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,241 字 · 5 页
「この前きた時の鰯のおつくりもうまかったわね」
と私がいうと、
「そうそう。鯛のおさしみよりもあれのほうがうまかった」
と姉が応じる。その時はちょっとした席がもうけられていて、型どおりの料理が運ばれたのであったが、その料理以外に私のそばへそっと、舟型のかなり大きな皿が運ばれてきて、宿の女中さんは笑いながら、
「こんなの、なつかしいでしょう。よろしかったら」
と姉との間に置いてくれた。みると鰯のつくりが山と盛られている。しょうが醤油でたべるのだ。うれしかった。私だけは小さい時から、これで育った。まず男の子なら鰯網を曳きにいく。その労働の代償にもらってきたのを、おつくりにしたり、煮つけたり、無塩の味噌汁に仕立てたり、大漁の時は煎り納屋でいってもらって(ざるにいれたまま熱湯をくぐらせる)煮干にする。小豆島の煮干は主にだしをとる種類のものだが、ぐっと小ぶりなのは煮干にしたのを下ろし大根と一しょに食べたりもする。私のうちではこれをフライパンで軽く煎って熱いうちに少量の醤油をかけてたべるのを好む。ビールのつまみに出すと、大ていのお客さまがほめて下さり、なかにはお代りを催促したりする。