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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

いまのあなたにお金をあげたら、僕は、ものの見事に背徳漢かも知れない。けれども、これは僕の純粋衝動だ。僕は、それに従う。僕には、この結果が、どうなるものか、わからない。それは、神だけが知っている。生きるものに権利あり。君の自由にするがいい。罪は、われらに無い。」

「ありがとう。」くすと笑って、「あなたは、ずいぶん嘘つきね。それこそ、歴史的よ。ごめんなさい。じゃ、また、あとで、ね。」

三木朝太郎は、くるしく笑った。

☆

東京では、昭和六年の元旦に、雪が降った。未明より、ちらちら降りはじめ、昼ごろまでつづいた。ひる少しすぎ、戸山が原の雑木の林の陰に、外套の襟を立て、無帽で、煙草をふかしながら、いらいら歩きまわっている男が在った。これは、どうやら、善光寺助七である。

ひょっくり木立のかげから、もうひとり、二重まわし着た小柄な男があらわれた。三木朝太郎である。

「ばかなやつだ。もう来てやがる。」三木は酔っている様子である。「ほんとうに、やる気なのかね。」

助七は、答えず、煙草を捨て、外套を脱いだ。

「待て。待て。」三木は顔をしかめた。「薄汚い野郎だ。