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ひのとり
火の鳥
「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页
間髪を入れず、ぴしゃあんと、ふたたび、こんどは左。助七は、よろめいた。意外の強襲であった。うむ、とふんばって、腰を落し、両腕をひろげて身構えた。取組めば、こっちのものだと、助七にはまだ、自信があった。
「なんだい、それあ。田舎の草角力じゃねえんだぞ。」三木は、そう言い、雪を蹴ってぱっと助七の左腹にまわり、ぐゎんと一突き助七の顎に当てた。けれども、それは失敗であった。助七は三木のそのこぶしを素早くつかまえ、とっさに背負投、あざやかにきまった。三木の軽いからだは、雪空に一回転して、どさんと落下した。
「ちきしょう。味なことを。」三木は、尻餅つきながらも、力一ぱい助七の下腹部を蹴上げた。
「うっ。」助七は、下腹をおさえた。
三木はよろよろ立ちあがって、こんどは真正面から、助七の眉間をめがけ、ずどんと自分の頭をぶっつけてやった。大勢は、決した。助七は雪の上に、ほとんど大の字なりにひっくりかえり、しばらく、うごこうともしなかった。鼻孔からは、鼻血がどくどく流れ出し、両の眼縁がみるみる紫色に腫れあがる。
はるか遠く、楢の幹の陰に身をかくし、真赤な、ひきずるように長いコオトを着て、蛇の目傘を一本胸にしっかり抱きしめながら、この光景をこわごわ見ている女は、さちよである。